セミナー定点観測 2026年秋 — 生成AI 41件、Kubernetes 0件

2026年秋のITセミナー市場に一言で名前をつけるなら、「AIと、それ以外」になる。

生成AIの開催予定は41件。2位のAWS 16件の2.5倍だ。その一方で、Kubernetes、Docker、Terraform、Python、CI/CD の開催予定は、いずれも0件である。1件もない。

本稿は、開催が告知されているIT/AI関連セミナー336件を全数集計した定点観測の第1回である。推計もサンプリングも使っていない。以下、数字が示していることを順に見ていく。


AIは「注目テーマ」ではなく、市場の主軸になった

技術が特定できたセミナー142件のうち、55件がAI関連である。38.7%。 4件に1件を超えて、5件に2件に近い。

順位 技術 開催予定 1位との比
1 生成AI 41件
2 AWS 16件 0.39
2 データ活用 16件 0.39
4 ローコード/ノーコード 11件 0.27
5 AIエージェント 10件 0.24
6 データ連携 9件 0.22
7 バックアップ/BCP 8件 0.20
8 ERP 7件 0.17
9 Claude 6件 0.15
10 Microsoft 365 5件 0.12

n=336

単独テーマがこれだけ離れて首位に立つ状態は、市場が一つの技術に賭けていることを意味する。2位から10位までを全部足しても88件で、生成AI単独の2.1倍にしかならない。


ChatGPTを説明する時代は終わっている

9位に注目したい。Claude 6件に対し、ChatGPT 3件。開催数が逆転している。

汎用チャットボットの使い方を解説するセミナーは、もう開かれていない。いま開かれているのは、特定のモデルを業務システムのどこに置くかを扱うセミナーだ。AIエージェント10件、RAG 2件という内訳も同じ方向を指している。

パターンとしてはこうなる。AIセミナーの主語が「AIとは何か」から「どのAIを、どこに」に移った。 導入検討フェーズが一段進んだことが、開催データにそのまま出ている。


コンテナもIaCも、商業セミナーには存在しない

技術カタログ57件のうち、17件は開催予定が1件もない。

AI-OCR / API開発 / CI/CD / Databricks / Docker / Gemini / Java / Kubernetes / Liferay / MA・CRM / MLOps / NVIDIA / Power BI / Python / Terraform / オブザーバビリティ / ワークフロー

コンテナ、IaC、CI/CD、機械学習基盤。エンジニアが日常的に触る技術が、まるごと欠けている。

代わりに何が開かれているか。ERP 7件、バックアップ/BCP 8件、ローコード/ノーコード 11件。いずれも「エンジニアが学ぶ」テーマではなく、「情シスが検討し、稟議を通す」テーマである。

理由は単純だ。商業セミナーはベンダーのリード獲得手段であり、予算を持たない参加者は集める価値がない。 Kubernetesのセミナーを開いても、その場にいるエンジニアは決裁できない。

つまり Kubernetes 0件が意味するのは「日本でKubernetesが学ばれていない」ではない。「Kubernetesは、金を払って人を集める対象ではない」である。

日本のIT人材育成は二層に分かれている。決裁者向けの商業セミナーと、実務者向けの無料コミュニティ勉強会。両者はテーマがほとんど重ならない。技術を学びたいエンジニアが商業セミナーを探しても収穫がないのは、市場がそう分かれているからだ。


セミナーは水曜の午後に開かれる

曜日 件数 構成比
95件 33.1%
71件 24.7%
51件 17.8%
50件 17.4%
15件 5.2%
3件 1.0%
2件 0.7%

n=287(開催日が判明したもの)

水曜は月曜の6.3倍。 火〜金で93.7%を占め、土日はほぼ存在しない。

時刻も同じくらい偏っている。

時刻 件数
15時台 26件
14時台 21件
11時台 18件
10時台 15件
13時台 14件
12時台 10件
9時台 7件

n=132(開始時刻が判明したもの)

14〜15時台だけで35.6%。 昼休み明けの2時間が定位置になっている。12時台のランチタイムウェビナーも10件あり、こちらも独立したフォーマットとして定着した。

主催側から見ると、この分布はそのまま競合の密度である。水曜午後は最も混んでいる時間帯だ。火曜と金曜は空いている。


オフラインは「集める場」から「触らせる場」に変わった

  • オンライン: 178件(59.3%)
  • 現地開催: 122件(40.7%)

n=300

「セミナーはすべてオンラインになった」は事実ではない。4割は現地に戻っている。

ただし用途は元に戻っていない。現地開催の中身は展示会出展と少人数の体験セミナーが中心で、大規模な集客はオンラインが担っている。オフラインは動員の手段ではなく、製品に触れさせる手段になった。


2ヶ月先の市場は、まだ存在しない

開催月 件数
2026年8月(25〜31日の7日間) 111件
2026年9月 162件
2026年10月 11件
2026年11月 3件

10月が11件しかないのは、10月にセミナーがないからではない。まだ告知されていないからだ。

BtoBセミナーの告知リードタイムは1〜1.5ヶ月。 2ヶ月以上先の告知は全体の5%に満たない。

参加者側にとって、これは実用的な事実である。来月のセミナーを今日調べても、8割はまだ世に出ていない。月に1〜2回チェックし直す以外に、取りこぼしを防ぐ方法はない。


セミナーは「開くもの」から「買うもの」になった

主催 開催予定
IIJ 11件
ビジネス+IT 11件
Salesforce 10件
アシスト 10件
ソフトクリエイト 9件
パナソニック デジタル 9件
IBM 8件
JFEシステムズ 7件

n=300

収集元プラットフォーム別では Doorkeeper 49件、マジセミ 35件、TECH PLAY 22件。

注目すべきはマジセミ経由の35件である。300件のうち1割超が、セミナー開催代行を経由している。自社に運営体制を持たない企業が、リード獲得のために開催機能そのものを外部調達している。セミナーは自社で開くものから、買うものになりつつある。


8割は、誰が話すかを言わない

登壇者の氏名と所属を告知ページに記載しているセミナーは、300件中61件。20.3%。

残る8割は、誰が話すのかを伏せたまま参加者を集めている。

参加を検討する側にとって、これは判断材料の欠落である。同時に主催側にとっては、登壇者を書くだけで8割から抜け出せるということでもある。競争が起きていない項目は、それだけで差別化の余地が残っている。


集計方法

  • 調査日: 2026年8月25日
  • 対象: 開催が告知されているIT/AI関連セミナー 336件(開催日あり287件、オンデマンド・日付未定49件)
  • 開催期間: 2026年8月25日 〜 11月30日
  • 収集元: Doorkeeper、マジセミ、TECH PLAY、ビジネス+IT ほか40以上の告知ページ
  • 方法: 主催者の告知ページから機械的に抽出。全数集計であり、アンケート・推計・サンプリングは含まない
  • 範囲: 商業セミナーの告知情報を対象とする。connpass等のコミュニティ勉強会、社内の技術共有会は対象外
  • 技術の名寄せ: 表記ゆれを57語のカタログに正規化(例: 「ジェネレーティブAI」「generative ai」→「生成AI」)
  • 重複除去: 同一セミナーが複数プラットフォームに掲載されている場合、正規化タイトルと開催日で名寄せして1件と数える

特記のない限り、数値は公開されている告知情報のみを対象とする。項目により母数が異なるため、各表に n を明記した。技術別は336件、曜日・時刻・開催月は開催日が判明した287件、カテゴリ・オンライン比率・主催者・登壇者は日付未定の一部を除く300件が母数である。


次回

本稿は定点観測の第1回であり、比較対象を持たない。集計を開始したのが2026年8月であるため、前年同期比は算出できていない。

次回以降は同じ方法で継続的に集計し、四半期ごとの推移を出す。生成AIの41件が増えるのか減るのか、Kubernetesの0件が動くのか。 単独のスナップショットでは答えられないその問いに、定点観測は答えられるようになる。


データはセミナーポータルが収集した公開情報にもとづく。集計日: 2026年8月25日